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会誌『癒しの環境』vol.9 no.2
(2004年7月20日刊行)
特集 第28回研究会「緑と癒し」
〜最新号の巻頭言から〜

4億年前、原始の海から陸上に進出した植物は、その後進化
しながら森林を形成し、陸地を覆っていった。陸地は湿潤になり、地表の温度変化も緩和されるなど、生物が棲みやすい環境が形成された。人類登場はたったの約500万年であるから、森林は、人類にとっていのちのふるさとといえる。太古から森に住んできた人間には、緑で癒されることがDNAに刷り込みずみなのである。
とくに我が国ではぐくまれてきた「森林文化」や「木の文化」は、二酸化炭素を吸収し貯蔵する森林の機能が知られる前から、 森林浴や木の香りがもたらす心地よさや安らぎ等として経験的に知られてきた結果である。ところが、高度先進文明という言葉がはやりだしたとたんに、この効用が姿を消し白壁の建物が林立することになった。病院も然りである。快適な生活、人間の健康、精神的な安らぎが求められる病院の中で、どうして、緑がなくなったのか?
悪性リンパ腫の友人からファックスが来た。森林療法を試しているお医者さんだ。森に入ると落ち葉がクッションになっていて足の感触が良く、土と樹の匂いがすごく良い。小鳥の声が聞こえてきて、空気が違う。思わず胸いっぱいに空気を吸い込みたくなる。ベートーベンの『田園』が聞こえてくる。「1楽章、2楽章と進んできて、歩き回っているうちに、もう、『第九』の世界です。フロイデ、フロイデと聞こえてくるんです。僕も大きな声で、知らないうちに歌っているんです。胸の隅々までいや体の細胞1個1個に酸素がしみ渡る。引きずりがちだった足もしっかりしてきて、胸を張って帰ることができる。ワイフが言うんです。『貴方、行くときは、あんなにしおしおといったのに、今、胸を張って、血色も良くなって、いったい、どこに行ってきたの?』」

本当か?学生さんを使って実験してみた。ヒノキの森に1時間置き去りにした。
井上明子22歳です。森に入って大変陽気になり心身ともに元気になったです。
小波津歩19歳です。森林浴はやっぱりすごいテンションが上がってさわやかな感じでした。今までいろいろ考えた、夜眠れなくて考えたこととかのいろんな考えがちょっとまとまってきたかな。悪い事は考えられないような場所に置かれていたので、だからとてもリラックスできました。
萩原裕です。19歳です。目が悪いんですけど、頭がすっきりしてきてとても視力がもどるような感じで、良かったと思います。感覚が研ぎ澄まされるような感じになって、どっちかっていうと瞑想している感じに近いっていうかすごい集中してた。自分の中に意識を集中させている感じでしたね。歩いたり、歩き回ったりして木を眺めたり、滝やら川やらを見ているうちにすごい自然と一体化している感じというか、何か自分が自然の中にいるって事がすごい楽しい事だなっていうふうに葉っぱとかにしずくがついて宝石のダイヤみたいな感じで光っているのが何か不思議だなーとかそういう感情が出てきましたね。今まで気づかないような事がドンドン気づくようになりました。雨の日っていうのは木とか植物とかはえているものが全部生き生きとして見えるから。最近嫌な事がいっぱいあってかなりいっぱいいっぱいだったんですけど、どうでも良くなっちゃいました。

彼ら12名の脈は落ち着き血圧は下がり、そして、免疫は高まった。詳しくは巻末の論文をご参照ください。そして、件の神戸の友人は1年後、「奇蹟がおきました、癌が消えました!」と太陽マークの絵入りでファックスをよこした。
ほかにも、緑の木々が見えたベッドにいた患者と、建物の壁しか見えなかった患者では胆石手術後の痛み止めの量が違い、治りも早いという論文がある。 産婦の母乳量は緑色の部屋ではじめての母乳が早く、しかも安定してたくさん出ることが確かめられた。
緑や木の特性を改めて見直し、病院にとりいれよう。緑や木の感覚的、心理的な効用について、科学的な把握が進められている。現代社会が高度に発展していく中で、こうした緑が、病院で当たり前に取り入れられることがのぞましい。米国の医療管理学会の論文に、病院における緑の大切さが取り上げられた。砂漠の国の病院のまわりには緑のオアシスがある。米国の新しい病院の設計はジャングルの病院かと思われる緑の量だ。日本の病院にも人間を癒す本物の緑を多くとりいれてほしいものだ。
癒しの環境研究会代表世話人
日本医科大学医療管理学教室  高柳 和江


最新号・主要目次
『癒しの環境』  vol.9 no.2 CONTENTS  2004.7月
T.特集「緑と癒し」 ――第28回研究会報告――
講演
「自然がもたらす快適性増進効果」
  森林総合研究所 宮崎良文
「屋上緑化を実現する」
  株式会社東邦レオ緑化部長 前田正明
「癒しにおける植物と人間」
  九州大学名誉教授・植物と人間関係学会会長 松尾英輔
『がんばらない』けど『あきらめな』〜ホッとする病院の緑と癒し〜
  諏訪中央病院管理者 鎌田 實 

U.第16回病院見学会記録
「東京都の高齢者医療と福祉の総合施設」
(東京都江東高齢者医療センター、三井陽光苑、メディケアイースト)
岐阜県立多治見病院 小山一之/岡村製作所関西デザインセンター 吉川修司

V.論文
「自然と人工の森林環境における心理的・身体的変化」
日本医科大学医療管理学教室 高柳和江

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