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会誌『癒しの環境』vol.13 No.1
(2008年3月31日刊行)
「温める癒し」 ―第37回研究会報告−
〜最新号の巻頭言から〜

 冬の赤ちゃんと、夏の赤ちゃんがいる。寒いところで生まれた冬の赤ちゃんは両手を握りしめて寝ているが、暑い地方の赤ちゃんは手のひらをだらっとあけて幸せに寝ている。人間の自然治癒力は恒常性を保つところにある。寒ければ毛穴が引き締まり、さらに寒ければぶるぶるっと震えて、体温を逃がさないようにする。人間は一般にストレスにあった時に、両手を握りしめてエネルギーを蓄える。南方の赤ちゃんは安全であることを温かさで知っているから、手を握り締めなくてよいのだ。温かい環境は人間の安全の基本である。
 2008年、米国の病院見学に行って驚いたのは、毛布温め機の存在である。手術室、画像など大型機械やコンピューターを備えた施設は、機械の性能を保つために部屋を寒くしている所が多い。だから、大型毛布暖め機は米国の病院で必需品である。いつでも患者さんに温かい毛布を掛けてあげることができる。テキサスのMDアンダーソン病院では、体温低下を防ぐためにアルミホイルのような宇宙飛行士が着る服を着せてくれた。確かに温かいが、でもちょっと違う。毛布の感触も暖かさには必要なのだ。宇宙飛行士の向井千秋さんに、無重力状態で夜昼ない状態で、どのようにして安眠できるのかを聞いたことがある。パジャマにも着替えず、入浴するわけでもなく、眠りにくいはず。ところが、枕をバンドで頭にくくりつけると安眠できるのだそうだ。この触感が大切なのだ。
 米国の病院で病棟に来る高校生ボランティアは会話をしながら、食事、ビデオ、温かい毛布などなどカートからいろいろなものを患者が病院にいて、温かくなるものを提供するサービスをするという。テレビをチャンネル3(コマーシャル放送を消したテレビ番組)に合わせるサービスもあった。こうして環境は温かくなる。
 温めることで変わるのは、体温だけではない。卵がひなにかえるまで大事に抱える、企画を温める。そのあとで、卵はひよこに大変身。企画は一大プロジェクトに育つ。温めるほうはただひたすら我慢して、同じ温度で、一瞬の休みもなく温度を保っていなくてはならないのだ。
 「ナオはなんのために生まれてきたのかなあ。病気になるために生まれてきたのかなあ」。4歳で小児がんになったナオちゃんは、もう5回も手術を受けていた。おかあさんは少年にこう語りかけた。「ううん違うよ。ナオはね、みんなに勇気と希望を与えるために生まれてきたんだよ」。いつか本人の口から出るにちがいないこの疑問にこたえるべく、母は心の中で言葉を温めていたのだろう。9歳で少年が亡くなる直前に、おかあさんは思わず言った。「おかあさんに、その痛みを頂戴」「ううん、だめだよ。おかあさんには耐えられないよ。ナオでいいんだよ」。(山崎敏子著『がんばれば、幸せになれるよ―小児がんと闘った9歳の息子が遺した言葉』小学館刊)
 心の深いところで何度も考えて、たっぷりと温められた言葉が口の端から発せられたとたん、人を変える。母の言葉のように、強さや優しさを育てる。皇后陛下の言葉、ローマ法王の言葉。人間の心の琴線に触れる言葉。それは心をポカポカに温めることなのだ。 
 今回は、人間をどのように温めれば癒しになるのかを、講師の皆様にそれぞれの視点から語っていただいた。部屋のぬくもりを科学の目でとらえること、温泉で病を癒すこと。そして、鍼灸でも体を温めることができること、温めれば免疫を活性化し治癒力を高めることを教えていただいた。
 柔らかく温めると、いのちの温もりを実感できる。この会誌を読んで皆様に温まってもらいたい。


癒しの環境研究会代表世話人
日本医科大学医療管理学教室  高柳 和江


最新号・主要目次
『癒しの環境』Vol.13 No.1
 CONTENTS 2008.3月
T.特集 「温める癒し」 −第37研究会報告−

シンポジウム
建物をどう暖めれば癒しになるか

名古屋大学環境学研究科都市環境学専攻教授 久野 覚
入浴・温泉の健康増進作用

   鹿児島大学医学部名誉教授 田中信行
がん患者を鍼灸で癒す

 国立がんセンター麻酔科鍼灸部門長 鈴木春子
免疫応答とエネルギーのめぐり

日本医科大学微生物・免疫学教室 東洋医学科教授 高橋秀実

U.海外視察研修記録

フィンランドの保健政策
 日本医科大学医療管理学教室 高柳和江
シウンティオ福祉センター視察とノルディックウォーキング

医療法人惇慧会外旭川病院? 熊谷充孝
フィンランド――律儀という言葉が活きている、7分ゆで卵と懐かしい古漬けの国

社会福祉法人全人会 永澤智子
ビジネス・インキュベーション――新しい事業・生活を創造する活力の育てかた

日本医科大学医療管理学教室 高柳和江

V.笑い療法士発表会報告

第3回笑い療法士発表会特別講演
「癒しの環境の重要性――建築家の立場から」

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授 長澤 泰
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