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会誌『癒しの環境』vol.8 no.2 (2003年9月20日刊行) |
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特集「患者さんのまわりの布」 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
〜最新号の巻頭言から〜 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
米国のある州では、「全裸時私的契約無効法」という法律がある。医師が白衣、患者が全裸ではそれだけで精神的に上下関係ができる。そのときに手術をする契約をしても平等に契約できないというのである。じゃあと、医者も患者同様裸になるわけはない。 裸でなければよいかといえば、そうもいかない。衣服の選択が大事なのである。病気になると、不安で一杯になる。入院すると看護師に案内されて部屋に入る。点滴を付けた顔色の悪い人々が凝視している中だ。着替えて、ベッドに横になってくださいとのりの効いた病衣を渡される。あの、どこまで、脱ぐんですか?すぐ、おなかを出して診察できるように、下着だけ残して、全部脱いでくださいね。そんなにいつもおなかを診てくれるのかしら。ベッドをおおったカーテンのなかで、一枚ずつ洋服を脱ぐ。脱ぎながらまわりの顔色の悪い人々の仲間入りをしていく自分に、だんだん気分が落ちこんでいく。囚人服を着たときのように社会的弱者を認識する。もっとも欧米では囚人は逃げても目立つ様にとド派手な真っ赤な服を着せられている。 入院すると昼も夜も同じ寝巻きである。病気でも、面会や人目のある日中は美しい姿でいたい。それで、生きる気がする。親友の美佐子ちゃんは胃癌で大阪の病院に入院していた。お見舞いに行くと必ず、ピンクのガウンを着てイヤリングをして待っていてくれた。きれいねとそこの看護師はいつもエールを送ってくれていた。こんな一言が病人を人間にする。元気になる気持ちがする姿で病院のベッドには横たわりたい。 母が入院したとき、立って歩きたくなるようなガウンを探した。ところが貧しい発想の病院には格好いいガウンを売っていない。いや、普通のデパートにもない。さらに小柄の母にはお引きずりのようなサイズしかない。結局、妊婦コーナーに行った。やっとあった。夢のあるガウンは妊産婦しか着てはいけないようだ。真っ白の美しいふわふわのレースとケープ風ガウンを買った。ところが、70歳の母は、こんなものを着て外には歩けないと一言のもとに却下した。日本では患者も人目を気にする。 評論家石垣綾子さんが再婚した。白いレースのフリルがついたシルクのネグリジェを着て初夜にのぞんだ。新郎の中年画家は、そんな蝶々のような変なものを着てといい、石垣綾子さんは鼻白み結婚を悔やんだという逸話をおもいだした。日本人は周囲の人の目のために衣装を着る。心地よく着て、寝るということができないんだ! 最古の病院アスクレピオス神殿では、新入り患者は風呂に入り、白い布で全身を巻いただけで、病気が治ったような気がしたという。ゆきちゃん5歳は母親に買ってもらったさくらんぼのパジャマが嬉しくて、楽しみに入院してきた。パジャマはどのような気持ちで病気に立ち向かうのかに、大切である。 今回は患者の身のまわりの布がテーマである。パジャマと寝具を取り上げた。 癒しには肌を包まれる幸せがある。砂漠のベドウィンは赤ちゃんを一枚の風呂敷大の布で、赤ちゃんをしっかりとくるくるに巻く。こんなにしっかり巻いて、と看護婦さんが固く巻いたシーツを取ると、赤ちゃんは不安で眠れない。シーツで堅く巻きなおしたら、安心してすやすや眠った。英国の子どもは上下のシーツをピンと張って、動けないようにしてもらって安心して眠る。シーツをピンとはってあげましょうね、これが、愛するお母さんがする寝る前の儀式だ。日本の子どもは、首周りまでしっかり布団に包まれることを好む。東北ではかい巻き式のふとんもあるくらいだ。ふとんでしっかり巻くことで、大地に包まれている感覚を感じるのかもしれない。 さて、何が、癒しになるのか。機能的な面だけでなく、肌に優しいこと、目に手に優しいこと、そして、ゆったりと落ち着くことができ、安心してほっとする環境をつくるのが、患者のまわりの布である。この特集を楽しんでください。 |
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癒しの環境研究会代表世話人 高柳 和江 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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